スピーカーの振動制御について

audioの基礎知識

振動制御について一番重要なのはスピーカーです。

まずスピーカー自体の振動について考えます。スピーカーの理想はユニットの振動から出る音だけにすることが究極の目標です。しかし、現時点でこれを完璧に達成しているスピーカーは存在しません。どんなに固めたキャビネットでも必ずキャビネットは振動してしまいます。ユニットから出た音にキャビネットの響きが乗ります。このキャビネットの不要な振動を極力減らそうとするのがデジタル登場以降の先端オーディオの流れです。何故そういう流れになったのでしょうか?

CD登場によって入口の位相の揺れがなくなったおかげです。アナログプレーヤーの場合、どうしても位相が乱れるのです。音像がピタッととまらずに輪郭がゆらって揺れるように感じたり、音像が一瞬ボケたりすような、少しの位相の乱れが避けられませんでした。それを避けるためにとんでもない超ド級のプレーヤーも開発されていました。しかし、CDはその問題が低価格なものでもクリアできていました。アナログプレーヤーから失ったものも多かったのも事実ですが。しかし、確かにオーディオは新時代を迎えることになります。その流れの中で主にアメリカのハイエンドオーディオの世界でステレオイメージという事が言われ始めます。単なる音像定位ではなくホログラフィーのように演奏者が浮かび上がるような再生です。ウィルソン・オーディオやヘイルズ、アヴァロン、ティールなどのスピーカーメーカーが優秀なステレオイメージ再生の第一走者のようになっていました。日本ではオーディオ各誌で傅信幸氏が紹介していました。このキャビネットの不要な共振がステレオイメージ再生に悪影響であるという流れに一役買ったのが、アポジーやマグネパンやマーティンローガンなどのキャビネットを持たないスピーカー群たちでした。これらの箱を持たないスピーカーは箱の内部で起こる不要な共鳴音がそもそも発生しないので、鮮やかなサウンドステージを提供していました。しかし、これらのスピーカーたちは、それぞれ方式は異なりますが、みな欠点を抱えていました。音量が出せない。インピーダンスが2オーム以下になる。低音が出せない、など鮮やかなステレオイメージと引き換えにしたものも多かったのも事実です。鳴らすのが非常に困難な、アンプにとっては不良品と言えるようなスピーカーたちです。これらのスピーカーを鳴らせるアンプが当時はクレルやレヴィンソンしかない、と言われた時代です。アンプについては別記事でそのうち書くかもしれませんが今回は省略。

共通するのはキャビネットを極力鳴らさないということでした。キャビネット自体を排除したり、コンクリ系の特殊素材を使ったり木の塊の中をくりぬいたかのようなものや、各社徹底的にキャビネットの制振化を徹底していました。そしてキャビネットを鳴らさない工夫と同時に位相の徹底した管理です。

イギリスではB&Wもこの流れをけん引した第一人者です。究極とも言えるノーチラスの発表もありました。ノーチラスの設計者、ローレンス・ディッキー氏は固めるのではなくキャビネット内を消音することで振動制御を試みました。音を熱変換させて消音するって、その発想力まさに天才です。ノーチラスは4ウェイマルチアンプ駆動が前提の特殊なスピーカーだったことや高額だったこともあってか普及することはなかったように思いますが、スピーカーの歴史上に名を刻んだことに間違いはないと思います。ローレンス・ディッキー氏はノーチラス開発後B&Wを辞し、現在はVIVID AUDIOでノーチラスをブラッシュアップさせたスピーカーを発表しています。

以上ざっと現代のステレオイメージを求めたスピーカーを紹介しましたが、これらのスピーカーたちとは異なりキャビネットを鳴らさないことを求めずに、どうせ鳴くなら美しく響かせようという逆のアプローチの振動制御を目指したスピーカーもあります。共通しているのは美しい響きのために広葉樹系のメープル、ウォルナット、マホガニーなどをやや薄めに使い木材の美しい響きを積極的に音造りに利用しようとしているようなスピーカーです。これも振動制御の一つの在り方です。

 

 

ただし、個人的には、ことステレオイメージ再生に関しては一歩後退するものが多いと考えています。

以上のようなスピーカー造りにおける振動制御の在り方をざっと紹介しましたが、それらのスピーカーを部屋に設置して使う場合の振動制御について解説します。これは振動制御より振動対策といったほうが適切かもしれません。

次の記事に続きます。

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