ユーヴェ工房はフルレンジスピーカーがメインとなっていますが、それには明確な理由があります。美しいステレオイメージ再生にはフルレンジスピーカーに大きなメリットがあるからです。
低域再生にはボイスコイル経を大きくしたウーハーの方が有利です。しかし、ウーハーを使ったマルチウェイスピーカーにはネットワークという大きなデメリットがあります。2ウェイの場合コイルとコンデンサーをそれぞれ二つずつ使ったりします(-12db/oct)。-6db/octの場合でそれぞれひとつずつ。そして単純に-6db/octの場合は位相が90度回転し、-12db/octの場合は180度位相が回転します。
この位相の回転はステレオイメージにとっては大きなデメリットです。位相の回転、ずれは音像の再現にとても大きく影響します。パッと聞いただけでは意外とわかりにくいのが音像に影響する位相のずれです。しかし確実にデメリットです。
しかしネットワークを使うマルチウェイスピーカーは低域から広域までそれぞれの帯域を再生するのに得意なユニットを使う事で無理なくワイドレンジを達成できるという大きなメリットもあります。
フルレンジを使う場合、このマルチウェイスピーカーの大きなメリットを享受できずに、一つのユニットで低域から広域まで再生しなければなりません。特に低域再生は難しいのでフルレンジスピーカーはメーカー製ではあまり見かけない方式です。2ウェイにした方が簡単にワイドレンジを達成できますし、ユニットが二つあった方がコストがかかってて高級そうに見えるのでスピーカーメーカーはフルレンジスピーカーには手を出しません。あくまで利益重視なので見た目を良くして売れやすくする意図が大きいのでしょう。
ネットワークがないことによるフルレンジの活き活きとした音の魅力を発信し続けていたのは故長岡先生です。長岡先生はフルレンジで低域を伸ばす方法としてバックロードホーンや共鳴管式のスピーカーを沢山発表し広めていました。昔はフルレンジでしっかりした低域を出すには、普通の小型バスレフでは無理でした。そもそもユニットがなかったと言って良いでしょう。
フルレンジと言っても、3インチからロクハンや30cmクラスのものまであります。JBLのD123なんて名器もありました。そして大きさも様々ながら、ツィーターをワイドレンジ化させたようなものからウーハーを上に伸ばしたようなものと、ツィータータイプのフルレンジや、ウーハータイプのフルレンジなど多士済々です。
ここからは個人的見解ですが、ツィーターを必要としない純粋にフルレンジだけで高域まで満足できるものは意外と多くありません。名器と言われているフルレンジJBLのLE8Tなどは低域が伸びていますが例外なくツィーターを加えたくなります。
個人的見解としてはツィーターを足したいと思わない事がフルレンジの合格基準です。そうなると3インチや4インチまでと考えています。
近年マーク―ディオやtangband,Hivi,peerlessなどとても優秀なフルレンジが出回るようになりました。ものによりますがツィーターを必要としない高域が20Kまできっちり伸びたフルレンジです。それでf0が100Hzを下回るものまであります。
f0を下げる方法はいくつかありますが、どれも広域の美しさとは相反することになります。そこをうまくバランスさせて広域の伸びは維持しつつf0を下げることに成功したユニットが前述のユニットたちです。fostexが入っていないのが残念でなりませんが。fostexはバックロード用のものばかりとのイメージが強すぎるのかもしれませんけど。
そしてフルレンジユニットのスピーカーの場合、どのようなキャビネットにするか、という大問題もあります。大きな箱で密閉型。やや大き目な箱だが密閉型より小型化できるバスレフ型。後ろに出る音を全面的に活用することで高能率で低域を伸ばせるバックロードホーン。
それぞれメリット、デメリットがありますが、ユーヴェ工房はステレオイメージを最優先にしているのでバックロードホーンは却下です。お好きな方は多いと思いますがバックロードホーンの音で良いと思ったのは良く調整されたスーパースワン一回だけでした。低域はあまり伸びていず、点音源のメリットが素晴らしい音の出方をしているのを聴いたことがありますが、その一度だけ。ロードに吸音材を入れたものでした。吸音処理の仕方はTMLに近かったのかもしれません。バックロードの音はよく言われる遅れた音というより箱の中で反響している音が私にはノイズとして聞こえてしまいます。ロードに吸音材を入れないバックロードホーンは大体このイメージです。好みの問題ですがユーヴェ工房がバックロードホーンに手を出すことはないでしょう。
密閉型は十分な低域を得るには箱の大型化は避けられません。小型、中型密閉箱は名器と言われるスピーカーでもなんだか詰まった音というか暗いイメージが付きまといます。背面に出る逆位相の音はシャットアウトするというのは一番大きなメリットです。そういう意味では正確な再生音が望めますが、空気バネを利用して低域を伸ばすという方法は、ユニットの動きに箱の内圧が制限をかけるという事です。ユニットは入力信号の動きを正確にしなければなりませんが、入力信号の動きを自由にするというユニット本来の動作に空気バネが作用してしまうと考えています。音色が少し暗いというか重いというか詰まったイメージになるのはこのせいなのではないかと感じています。
もうこれは個人的なイメージのせいとは思いますが、初めて使ったスピーカーはVictorのzero5(バスレフ)でした。次に使ったのがVictorのSX-511(密閉)でした。その後セレッションのSL-6si(密閉)でした。上で書いた密閉のイメージはこの経験が元になっています。断然zero5の方が良い音でした。
話が随分逸れていますが、フルレンジには大きな魅力があります。純粋に音として。最初に少し触れましたがネットワークを排除できるのは一番のストロングポイントと言えるでしょう。スピーカーケーブルを交換して音が変化する経験はこのブログを読んで頂いている方は皆さん経験がある事と思います。スピーカーケーブルを1.5メートルで設置している場合に、高級ケーブルに交換して音が良くなったとしましょう。しかし、その音が良くなったケーブルを15メートルで使用した場合、元の1.5メートルのケーブルの音と比べて良くなるでしょうか?15メートルくらいなら音質劣化はないから15メートルの高級ケーブルの方が元の1.5メートルのものより良くなるか?実際に比べてないので私にもわかりません(笑)
私は少なくとも精神的には元の1.5メートルの方を取ります。経路を短くするというのはオーディオの基本ですから。
なんて事を考えた時にネットワークですよ。2ウェイで-12db/octだとコイル2個も使うわけですよ。容量にもよりますし、コイルの線材にもよりますけど、数メートルの余計なケーブルに信号が通るのと同じような事と思ってしまうわけです。
そもそもコイルを通すと音質劣化するからコイルなわけです。高域が劣化して信号が減衰するからローパスフィルターになるわけです。そこで一つ疑問です。ローパスフィルターとして通している帯域の劣化はゼロなのか?まあ無視できるレベルなのだと思いますが、ゼロのわけないですよね。
そしてクロスオーバー付近のウーハーとツィーターの重なる部分の大問題です。この部分は優秀なフルレンジに絶対に勝てない部分です。
とはいえ、フルレンジはマルチウェイスピーカーに絶対に勝てない部分も当然あります。上述のデメリットがあってもなおマルチウェイにするメリットが大きい面もあります。
高域が20kHzまでしっかり伸びた3インチや4インチのフルレンジでは、小口径故に低域再生はボイスコイルを大きく振動板を重く出来るウーハーには当然かないません。しかし、低域再生をクリアできるのであればフルレンジの優位性は大きいのではないでしょうか。
一つ個人的な感想を言わせていただきますと、比較視聴ではなく、数日マルチウェイスピーカーを聴いていてフルレンジを聴いたときに、一瞬、なんだかうるさく感じたりすることがあります。そしてしばらくフルレンジを聴いていて、しばらくぶりにマルチウェイスピピーカーを聴くと、音数がガクンと減ったように感じたりします。この時に思うのです。クロスオーバー付近の少しの谷、その周辺の音の解像度がネットワークのせいで落ちているんだな、と。耳というか、脳はすぐに慣れます。いわゆるエージングされるのですね。しかし、変化したときにその変化に過敏に反応します。オーディオはこの変化をどう受け取るか、みたいなところがあります。すぐに結論を出さないのも大事かもしれません。
ユーヴェ工房では、ステレオイメージの再生に全力で取り組んでいますが、バッフルを最小にしキャビネットを強固にすることでSN比を最大限上げることで、フルレンジのメリットを最大限に活かすスピーカー造りをしています。
コメント
最近のアンプ付きスピーカーの中には、
安くて高性能なDSPを使ったものは、
帯域分離から、位相からタイムアライメントまで、
プログラムで、自由自在にいじれて、しかも
DSPとデジアンのバイアンプがワンチップになったものを使用したものもあるので、
ハイコストパフォーマンスで結構良いです。
そういうのは結構フルレンジに近い音していますよ。
昔ながらのパッシブはおっしゃる通りですが。
クオリアさま
コメントありがとうございます。
実はおっしゃるようなDSPを使ったカーオーディオを聴かせて頂く機会がありましてびっくり仰天したところです。
カーオーディオでしたが、まるでフルレンジのように繋がりステレオイメージも鮮やかに提示していました。
短時間でしたが、その可能性に驚きました。
今後口径の大きいものを使ったスピーカーを使いマルチウェイ化する際はネットワークではなくDSPを使ったものに行くと思いました。
ホント先日聴いたものはびっくり仰天しました。